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「耐震指針改訂」に関する幻のコメント

2006年4月16日
石橋克彦(神戸大学都市安全研究センター)

 静岡新聞2006年3月27日付朝刊1面トップ記事に関して、静岡新聞の記者といまだに非生産的な遣り取りを強いられている状況下で、また新聞社の取材でたいへん不快かつ消耗な体験をした。取材を受ける専門家の心構えや、メディアのシステムの長期的視点での改善などに、多少は参考になるかもしれないと思い、以下に顛末を記しておく。

 原子力安全委員会の耐震指針検討分科会で審議が続けられている「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針」の改訂が間もなく終了しそうなところから、3月31日に、某新聞社の科学技術部の記者から取材依頼の電話をもらった。審議の経過も踏まえて取材の意図などを慎重に確かめたところ、社会部ではなく科学技術部として、取りまとめの状況を正確に伝えたいのだとして熱心に取材を求められたので、引き受けることにした。

 4月7日の午後に都心で3人の記者の取材を受けた。
 静岡新聞の苦い経験があることを話し、記事の最終版まで十分にチェックさせてもらえるかどうかを確かめたところ、それは完全に出来ると言われた。私ともう一人のインタビューが並んで掲載されるが、インタビュー記事は、私が書く代わりに記者が書くようなもので、著作権は私にある、私が承諾しなければ掲載できない、したがって原稿から最終ゲラまでチェックできるとのことであった。

 11日夜に担当記者が書いた原稿をメールで受け取り、その骨格を尊重しつつも大幅に修正を加えた。その際、字数を再確認したところ、12字×50行だが少し長くなっても必ず全文掲載すると言われた。また、最初の原稿に基本的な点が抜けていたので、記者が書く記事本体の内容との重複を避けたのかと思い、重複してまずいのなら記事本体の概要を教えてほしいと頼んだ。それに対しては、重複が生じたとしても、インタビュー記事としてはむしろそのほうがよいと言われた。
 メールや電話で何度か遣り取りをした末に、14日夜遅く、最終的に合意した11字×55行の縦書き原稿がFAXで送られてきた(最後の段階で1行の字数が12字から11字になった)。あとは、掲載前日の16日夜にゲラ刷りを最終確認することになった。
 これまでの経験で、「デスク」と称する人が削ったり、禁則処理の結果はみ出してギリギリで表現を変えさせられたりという苦い経験があったので、何度も確かめたが、その心配はないとのことであった。

 ところが、16日夕方5時過ぎに担当記者から、デスクの手が入って32行になってしまったが了承してほしい、という電話があった。私は直ちに、それは約束が違うし、意を尽くせない文章だろうから、掲載そのものを断ると言った。押し問答の末、一度はとにかく原稿を見てくれといってFAXが送られてきたが、やはり私が考えた全体のバランスは無視されて、つまみ食い的な記事になっていた。
 すぐに掛かってきた電話で、私は、全体が掲載されなければインタビュー記事として意味がない、中途半端に掲載されるのは何も載らないよりかえって悪い、かと言って、デスクが全体の紙面構成を考えて32行に削ったのだろうから、いまさら55行をどうしても載せてくれと言う気もない、また、40行などと半端なことを言われても、それに対応している暇はない、答えは「掲載取り止め」しかないだろう、と言った。もう一度だけ検討させてほしいと言われて待たされたが、結局、長くしても40行くらいなので、今回は掲載を取り止めさせていただきますということになった。

 過去にも、「デスク」という私にとっては正体不明な人の横槍で、取材記者との信頼関係が崩されて、大切と思っている発言や説明が削られたことは何度もある。その都度、がっかりしながらも我慢してきた(事前に、デスクの手が入って修正・短縮されることがあると言われて了承した場合もあるが)。しかし、今回はあまりにも約束と違い、結果も大違いなので妥協できなかった。
 取材記者と取材先の信頼関係に寄り掛かりすぎないで、「血の通っていない」第三者が冷静な目で記事を整理するのも必要なことなのではあろう。しかし、取材される側も現場の記者も徒労に終わるようなことは、システムとして改善してほしいと思う。
 取材される側としては、今回以上に注意深くすることは不可能である。となると、重要な問題についての発言に関しては、字数を確約してもらった署名原稿以外は取材を拒否することしか正確さを守るすべはないのか、と考えてしまう。

 なお、掲載されなかった原稿を PDFファイルで掲げておく。PDF・6KByte
(あくまでも、1行11字の新聞用の表現という制約のもとでの原稿である。また、ゲラに施そうと考えていた些細な修正を含んでいる。)
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