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研究集会報告 | |
日本地震学会ニュースレター,Vol.17,No.5に掲載予定 |
研究集会報告
平成17年度東京大学地震研究所共同利用研究集会 「伊豆の衝突と神奈川県西部の地震・火山テクトニクス」の報告 神戸大学都市安全研究センター 石橋 克彦
2005年11月8日(火) 午後と9日(水)全日,箱根山麓にある神奈川県温泉地学研究所(小田原市)で表題の研究集会を開催した.研究代表者は筆者,地震研究所の担当は瀬野徹三氏である.
この集会の目的は,中期中新世から現在までの南部フォッサマグナにおけるプレート収束史を念頭に置きながら,最新の調査・観測・研究結果を総合的に検討して,南部フォッサマグナの中央で現在進行中の伊豆の衝突のプロセスと,神奈川県西部における地震・火山活動のメカニズムを考えようというものである.したがって,話題はプログラムにあるように多岐にわたっているが,それらを5部に整理して進行した. 神奈川県西部では歴史上M7クラスの被害地震が繰り返し発生しているが,昨夏の地震調査研究推進本部による南関東の地震の長期評価ではこの地域の検討が避けられ,地震発生機構の解明が課題であるとされた.しかし,南部フォッサマグナや神奈川県西部に対する学界の関心は,1980年代後半から90年代初めにかけての「南部フォッサマグナにおける衝突現象の解明」(国際リソスフェア探査開発計画(DELP)の一環)や「M7級の内陸地震の予知に関する研究」(科学技術振興調整費;神奈川県西部地震が対象)では大いに盛り上がっていたが,90年代半ばからは薄れているようにみえる. 一方で,GPS観測網や稠密地震観測網による観測,1923年関東地震の震源断層モデルの見直し,国府津-松田断層などの活断層の再調査,神奈川県西部を含む南関東の深部構造探査などは目覚ましく進み,新しいデータや解釈が華々しく提示されるようになった.ところが,これら大規模・高分解能の観測・調査・計算結果とその解釈は,南部フォッサマグナのテクトニクスとして統一的にみようとすると,個々バラバラだったり不可解だったりする点が少なくない.そこで今こそ,ある地域の現在の変動は過去および隣接地域の変動と不可分であるという原点にもう一度立ち返り,これまでの研究の蓄積と最新の情報とを総合的に検討しようと考えたわけである.この原点は,衝突現場とされる本地域ではとくに重要だが,最近はそのような姿勢が希薄なように思われる.なお,本集会を温泉地学研究所で開かせていただいたのは,対象地域の真っ只中ということのほかに,ある信頼できる中堅地震研究者の「いま神奈川県西部に真面目に取り組んでいるのは温地研だけだ」という言葉が念頭にあったからでもある. 研究集会のプログラムは以下のようであった. <11月8日/13時〜17時50分>
・本多久男(温地研):挨拶
第1部:枠組としての南部フォッサマグナの衝突現象・石橋克彦(神戸大):研究集会の趣旨
・小川勇二郎(筑波大):海陸双方からみる伊豆弧衝突テクトニクス
第2部:やや広域の諸現象のレビュー・天野一男・松原典孝(茨城大):南部フォッサマグナにおける衝突付加した海洋性島弧の精密復元 ・山田国見・田上高広(京都大)・K.A.Farley (Caltech):(U-Th)/He法による丹沢トーナル岩体の冷却史 ・青池 寛(JAMSTEC):伊豆衝突帯の構造発達 ・石川正弘(横浜国大):伊豆衝突帯の岩石学的地殻構造モデル ・瀬野徹三(東大震研):衝突の2類型(ヒマラヤ型とアルプス型)と伊豆の衝突
・野口伸一(防災科研):震源分布からみたフィリピン海プレートの形状と地震活動
<11月9日/9時30分〜18時>・神谷眞一郎(JAMSTEC):地震波トモグラフィからみたフィリピン海プレート ・中道治久(名古屋大)・富士山稠密自然地震観測グループ:稠密地震観測による南部フォッサマグナの地震波速度構造 ・久保篤規(高知大):伊豆衝突域周辺の広域応力場
・佐藤比呂志(東大震研)・伊藤谷生(千葉大)・大都市圏地殻構造研究グループ:反射法地震探査によるフィリピン海プレートの形状
第3部:神奈川県西部地域の地殻活動と変動・笠原敬司・武田哲也・木村尚紀(防災科研):マルチチャンネル地震波反射法による相模湾のイメージング(既存データの整理) ・藤岡換太郎・山下幹也・木下正高・木戸ゆかり(JAMSTEC):相模湾の地形と地質・構造 ・今給黎哲郎・西村卓也(地理院):測地測量データからみた伊豆衝突帯の変動 ・河村将司(名古屋大)・山岡耕春(東大震研):GPSデータの主成分解析とその解釈
・棚田俊收(温地研):神奈川県西部地域の地震活動と箱根の火山活動
第4部:現在の変動を含むテクトニックモデル・原田昌武・棚田俊收・伊東 博・本多 亮(温地研):神奈川県西部地域の地殻変動と応力場 ・林 広樹(島根大)・伊藤谷生(千葉大)・上杉 陽(都留文大)・笠原敬司・関口渉次(防災科研)・高橋雅紀(産総研)・津久井雅志(千葉大)・柳沢幸夫(産総研):伊豆衝突帯北東部における2000m級陸上掘削:大都市大震災軽減化特別プロジェクト(I)の成果 ・小田原啓・萬年一剛(温地研):神奈川県西部地域の活断層 ・石橋克彦(神戸大):歴史上の小田原地震とその震源域 ・田淵裕司・石橋克彦(神戸大)・吉岡祥一(九州大):1923年関東地震の静的断層モデル:西相模湾断裂を考慮したインバージョン(予報)
・高橋正樹・長井雅史(日大):箱根火山の形成史とテクトニクス
第5部:総合討論・山崎晴雄(首都大東京):国府津-松田断層の活動特性とテクトニクス ・瀬野徹三(東大震研):伊豆デタッチメント仮説 ・石橋克彦(神戸大):伊豆弧の衝突と西相模湾断裂
・小林洋二:南部フォッサマグナ地域のテクトニクスに関する古くて新しい問題
・松田時彦(地震予知振興会):南部フォッサマグナの地層・地質構造からみた伊豆弧の沈み込み帯 ・小山真人(静岡大):コメント
集会には延べ約140人が参加された.最新の調査・観測・研究結果のほかにレビュー的な講演も少なくなかったが,若手研究者には,時間・空間的にも分野的にも,広範囲の豊富な話題と議論をまとまって聴く滅多にない機会だったのではないかと思われる.実際,どの講演も新鮮で刺激的な集会でたいへん勉強になったとか,地球物理学と地質学とが一緒に議論して初めて内容が豊かに面白くなることを痛感して有意義だったというような若手の感想をいただいた.瀬野氏によると,最近では出色の充実した共同利用研究集会だったとのことである.
合同大会の共通セッションなどであれば,もっと多くの関係者や若い方々が参加したであろうと思うと一寸残念だが,現地で開催したことにも大きな意義があった.箱根地ビールと小田原名産の肴を囲んだ箱根ビール蔵での懇親会も好評だったし,温泉での1泊を楽しんだ参加者もいた. 本集会が,南部フォッサマグナと神奈川県西部地域に関する諸問題の再確認という意味で,興味尽きないこの地域に新たに切り込むためのマイルストーンになったとしたら幸いである.そのためにも,また,内容が盛り沢山の割に時間が少なくて十分な議論ができなかった点をカバーするためにも,講演内容をまとめて出版したいと考えている.なお,講演要旨などは http://historical.seismology.jp/ishibashi/izu-collision/ に掲載されている. 最後に,本研究集会を採択してくださった東京大学地震研究所,世話役の労をとってくださった瀬野徹三氏,ロジスティックスを全面的に面倒みてくださった神奈川県温泉地学研究所の本多久男所長・石坂信之氏はじめ皆様,たいへんお忙しいなかで講演を引き受けてくださった方々,活発な討論をしてくださった参加者の皆様に厚く御礼申し上げます. |
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